泊まれる家にも、住める家にも。
東京都台東区浅草橋/築古の木造2階建て
築古の物件をお持ちの方、これから買う方に、そのまま使ってもらえる判断だけを書きました。
使い方が変わっているのに、同じ設備をそのまま入れ替える。これがいちばんもったいないお金の使い方です。この現場では浴槽をやめました。
棚板が一枚あるだけの階段下に、給排水と電源を引き込みました。デッドスペースに設備を入れられるかどうかの見極め方を書いています。
トイレの壁の穴には、照明が入っていました。順番を間違えると、暗いトイレが完成します。築古でよくある落とし穴です。
浅草橋の路地に建つ、築古の木造2階建て。宿泊にも、シェアハウスや社宅にも使える状態にするための工事です。
ご依頼主は、ゲストハウス「Little Japan」を運営する株式会社Little Japan 代表・柚木理雄様。宿泊施設の運営を知り尽くした方からのご依頼でした。
建物としては使える状態でしたが、水まわりが今の使い方に追いついていない。ここをどう組み替えるかが、この工事のすべてでした。
「古いから全部やり替える」ではなく、この家が使われない理由から順に。
同じ場所の、着手前と完了後。それぞれに「なぜそうしたか」を添えています。
バッジは、その工事をご自分でできるかどうかの目安です。
湯船に浸からない今の宿泊者の使い方は、柚木様がいちばんご存じでした。だから「小さな浴槽を新しくする」のではなく、浴槽そのものをやめる判断に。天井高をしっかり確保して背の高い海外のゲストにも対応し、洗うスペースを広くとったシャワーブースにしています。乾きやすく、掃除の手間も減りました。
設備は「新しくする」より先に、要るかどうかを決めてください。使い方が変わっているのに同じものを入れ替えるのが、いちばんもったいないお金の使い方です。浴槽をやめて空いた面積は、天井高と洗い場に回せます。
この家には、そもそも洗面台がありませんでした。幅610mmの洗面化粧台とミラーキャビネットを新設。壁はグレーのクロスでまとめ、鏡の上には可動式のブラケット照明を。手元が暗くならないように配慮しています。
洗面台は「幅が足りないから置けない」ではありません。既製品の最小クラス、幅610mmなら、諦めていた場所にも入ります。 ここも左右に隙間が出るので、壁と棚で埋めて納めました。そして測る順番は、幅より先に奥行きです。奥行きが取れないと、どの製品も入りません。
カーテン一枚だった浴室の入口に、チェッカーガラス入りの木製建具を新設。キッチンと地続きだった空間を、独立した洗面脱衣所として切り分けました。建具を入れるために既存の壁を一部壊しているので、その跡は大工が造作して納めています。光は通しつつ視線は切れるので、廊下から見たときの印象まで変わります。
仕切るのは「壁」だけではありません。ガラス入りの建具なら、光を殺さずに視線だけ切れます。 狭い家ほど、壁で仕切ると奥が暗くなります。仕切りたい理由が「視線」なのか「音」なのか「熱」なのかで、選ぶものが変わります。
棚板が一枚あるだけで、ほとんど使われていなかった階段下。ここを解体して、給水・排水と電源を新しく引き込み、洗濯機を置ける場所に変えました。配管のため床には点検口を設けています。面積を増やさずに、使える場所を増やす工事です。DKを大きく占めていた洗濯機がここへ移ったぶん、DKが広く使えるようになりました。
面積は増やせなくても、使える場所は増やせます。 デッドスペースに水まわりを持ってこられるかどうかは、既存の配管ルートと排水の勾配で決まります。図面より先に、床下と壁の中を見てください。そして必ず点検口を設けること。入れて終わりにすると、詰まったときに床を壊すことになります。
天井に穴が開いたまま、テープと紙で応急的に塞がれていました。落下の危険があるため、木材でしっかり塞ぎ直しています。照明はもともとLEDが付いていたので、そのまま活かしています。見た目のためではなく、安全のための工事です。
「見えなくすればいい」で塞がれた場所は、たいてい直っていません。 テープや紙は応急処置です。落ちてくる前に下地から作り直します。逆に、照明のように問題なく使えているものは、無理に新しくしません。お金は、直さないと危ないところから使います。
扉の横に空洞が開いたままで、階段側から中が丸見えでした。宿泊にもシェアにも、これでは使えません。ただし、その空洞には照明が付いていました。塞ぐには照明を動かす必要がある——というのが、この小さな工事の本当の中身です。
塞ぐ前に、なぜ空いているかを調べてください。 配線が通っている、換気の逃げ道になっている、点検のために開けてある——理由があることが多いです。ここでは照明が入っていました。先に塞げば、暗いトイレが完成します。
扉横の空洞にあった照明を天井へ移設し、器具も新しくしました。空洞を塞いでも暗くならないように。既存の木製建具と塗り壁はそのまま。手を入れないところを決めるのも、リフォームの設計です。
照明は「器具」ではなく「位置」で決まります。 同じ明るさでも、壁際から天井の中心へ移すだけで、影の出方と感じる明るさが変わります。
なお、配線を触る工事には電気工事士の資格が必要です。 ここはDIYの範囲外。器具を同じ場所で交換するだけなら、資格なしでできる場合があります。
やったこと/使ったもの。
| 浴室 | 在来タイル浴室を解体し、シャワーブースを新設。天井高と洗い場の面積を確保(給排水・電気の付け替えを含む) |
|---|---|
| 洗面 | 幅610mm・2段引き出しの洗面化粧台+ミラーキャビネットを新設/シャワー付き混合水栓/可動ブラケット照明を新設 |
| 建具 | 洗面脱衣所の入口にチェッカーガラス入りの木製建具を新設(既存壁の一部解体と、その跡の造作を含む) |
| 内装 | 洗面脱衣所の床=クッションフロア(東リ)/壁=グレー・グレージュのクロス(サンゲツ)。復旧箇所は既存に近い材で納める |
| 洗濯機置き場 | 階段下の物入れを解体し、給排水と電源を新設。床を張り替え、配管のための点検口を設置 |
| 安全まわり | DKの天井に開いていた開口を木材で塞ぎ、落下を防止/トイレ扉横の空洞を閉塞 |
| 電気・空調 | ルームエアコンを新設(日立 白くまくん)/トイレ照明を天井へ移設し器具を交換/洗濯機用の電源整備 ※DKの照明は既存のLEDをそのまま使用しています |
| 実工事日数 | 15日程度 |
仕上がりの様子。










この現場で、いちばん考えたこと。
ご依頼主:株式会社Little Japan 代表・柚木理雄様 浅草でゲストハウス「Little Japan」を運営される、宿泊施設のエキスパート。今回の判断のいくつかは、柚木様が現場で見てこられた「実際に泊まる人の使い方」から出てきたものです。
いちばん大きな判断は、浴槽をやめたことでした。
湯船に浸からない人が増えている、という感覚は、私たち施工側よりも柚木様のほうがはるかに解像度が高い。だから「小さな浴槽をきれいにする」ではなく、浴槽をなくして、そのぶんを天井の高さと洗い場の広さに振り分けました。海外からのゲストには背の高い方も多いので、頭上の余裕は実際に効きます。くつろぐための浴室ではなく、きちんと機能するシャワーブースへ。
もうひとつ時間をかけたのは、「どこを触らないか」を決めることです。木製の建具や塗り壁、既存の床は、経年した表情ごと残す。DKの照明も、もともとLEDが付いていたのでそのまま使いました。そのかわり、洗面台のなかった水まわりには設備をきちんと入れる。使っていなかった階段下は、洗濯機置き場という役割のある場所に変える。DKを占めていた洗濯機が動いたぶん、部屋そのものが広く使えるようになりました。
そして、危ないところと、恥ずかしいところは確実に直す。天井にテープで塞いであった穴も、階段側からトイレの中が見えてしまう空洞も、そのままでは人が泊まる家・住む家として置いておけません。ここは迷わず手を入れました。
限られた予算を「効くところ」と「直すべきところ」に寄せる。そうすると、建物の古さは「味」の側に回ってくれます。
クラディは、プロの施工とDIYの両方の目線から、この配分をご一緒に考える会社です。
ご自分でやってみるのも、任せていただくのも、どちらも歓迎です。